COVER WATCH/今月のトップ画面の時計


WATCH FILE(ウォッチ ファイル)/Vol.107

冒険時代

 なぜ人は山に登るのか、という命題は、人類の本質に繋がる。約25万年前、アフリカで誕生したホモ・サピエンスが、なぜ突然グレートジャーニーを始めたのか。そして最後には地球のあらゆる地の果までたどり着く。その途中、ひとりのホモ・サピエンスに訊ねると、彼は目を細めながら遠くを見つめ「そこに地平線があるからさ」と言ったとか、言わなかったとか。

 その登山だが、難関を極めた山を制覇する挑戦が最も加熱したのは19世紀終盤から20世紀にかけての半世紀ほど。まさに探検の時代だった。南極大陸のヴィンソン・マシフや2000m級のオーストラリア大陸のコジオスコ。そしてエベレストを除けば、七大陸最高峰の初登頂はだいたいこの時期に重なる。やはり最後まで人類の登頂を阻んだのは、ヒマラヤ山脈とそれに連なるカラコルム山脈にそびえる8000m峰だった。実にその数は14に及び、それらの頂点に君臨するのがエベレストだった。とくにイギリス隊のエベレスト制服への執念は凄まじかった。初の北極点到達は米国人のロバート・ピアリーに先を越され、初の南極点制覇はノルウェー人ロアール・アムンセンにしてやられた。イギリスは、“第三の極”エベレスト初登頂に帝国の名誉を賭けていた。その中心人物がジョージ・マロリーで、精鋭の登山家はもちろん専門学者や医者、測量のプロなど当時考えられる最高のスタッフと最先端の装備で3度エベレストに挑んでいる。1920年代から30年代のことだ。しかし、8000mを超えると極端に酸素が薄くなる、いわゆる“デスゾーン”の脅威にことごとく夢を打ち砕かれ、最後は頂上間近で行方不明となっている。ちなみにイギリス隊のエベレスト世界初登頂は、1953年のことだった。

 そんな冒険時代、とくに過酷な登山と時計の関係に思いを馳せてみた。時計が登山にとって絶対不可欠な装備品だったことは間違いない。厳格な時間管理はもちろん、正確な時刻と六分儀があれば天体から現在位置も割り出せる。当時はまだ、時計メーカーがスポンサーとして登山隊をサポートする時代ではなかったから、隊員たちは精度と耐久性において最も信頼性の高い時計を探し抜いたに違いない。なにしろ生命の掛かった道具だったからだ。そして、その当時、世界各国の探検隊たちの多くが採用した時計がミネルバだった。実際、1920年代から30年代に山岳探検も想定した高い視認性と堅牢性を持つ高性能腕時計を発売していた。そして当時の冒険登山家たちに愛用されていたシリーズを現代的に再解釈したのが『モンブラン 1858 コレクション』だ。なかでもここで紹介しているミネルバ160周年を記念した“ジオスフェール”は、2つのドーム型のワールドタイマー機構にあしらった北半球と南半球の地図上に七大陸最高峰を赤いドットで示している。それは、まさに最高峰を目指した山岳探検家たちのスピリットを刻んでいるかのようだ。

 ちなみにジョージ・マロリーが生前、周囲の記者から、なぜエベレストに登りたいのか、と訊ねられたときの答えはあまりにも有名だ━━Because it’s there.(山田)

MONTBLANC/モンブラン

モンブラン 1858 ジオスフェール リミテッドエディション 1858

2006年にモンブランの傘下に入った名門マニュファクチュール「ミネルバ」が創業160周年を迎えた今年、「モンブラン 1858」コレクションからは数多くの意欲作が登場。そのひとつが、1920~30年代のミネルバのポケットウォッチやクロノグラフを再解釈し、最新のテクノロジーを導入して製作したワールドタイマーの“ジオスフェール”だ。100m防水。世界限定1858本。自動巻き(キャリバー MB 29.25)。ブロンズケース。ブラックセラミック付きブロンズベゼル。ケース径42㎜。カーフストラップ。71万円(税抜)。問い合わせ/モンブラン コンタクトセンター☎0120-39-4810

インデックスと針、また12時位置の北半球、6時位置の南半球の大陸部分にはスーパールミノバ加工が施されており、暗い場所でも視認性を確保している。

ミネルバの時計を携行し、1920~30年代に七大陸最高峰の登頂制覇に挑んだプロの登山家の偉業を称え、このモデルには、北・南の2つの半球ドームの大陸図に七大陸最高峰がレッドのドットで示されている。
12時位置には北半球ドーム、6時位置には南半球ドームが装備されており、北半球は反時計回りに、南半球は時計回りに回転する。それぞれ、昼夜に色分けされた24の時間帯を示すスケールリングによって、各時間帯の時間を読み取るという、画期的なワールドタイム機構だ。
ケースバックには、モンブランの山の絵と、コンパス、交差するアイスピックの絵柄がエングレービングされている。また、装着されているブラウンエイジドカーフスキンのブンドストラップは、フィレンツェのモンブラン自社レザー工房「プレテリア」で製造されたものだ。

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