H.モーザーの覚醒 01   ENDEAVOUR/エンデバー

現在に受け継がれている
ハインリッヒ・モーザーの精神

 1805年にスイス、シャフハウゼンに生まれ、時計師としての卓越した時計製造技術のみならず起業家としての成功も含め、19世紀の時計史に名を刻んだハインリッヒ・モーザー。その彼の人生は大きく3つの時代に分けることができる。その1番目は、シャフハウゼンおよびル・ロックルにおいてスイス屈指の時計師へと研鑽を重ねた時代であり、2番目はまったく新たな市場であるロシアに旅立ち、その地で大成功を収めた時代。そして3番目がシャフハウゼンに帰郷し、時計製造だけにとどまらず水力発電所の建築など産業の発展にも貢献した時代である。H.モーザーは、2013年に就任したエドゥアルド・メイランCEOのもとでブランドの再スタートを切った際、製品ラインを創業者のレジェンドでもある3つの時代を投影した3つのコレクションに再編している。それが“エンデバー”(真摯な努力)、“ベンチャー”(冒険者)、“パイオニア”(開拓者)だった。この連載では、ハインリッヒ・モーザーが辿った3つの時代の、挑戦と探求のストーリーに迫った。第一回目は、“エンデバー”。

  15世紀以来、時計作りの技術と伝統が継承されてきたシャフハウゼン。この地で代々にわたる時計職人の一家に生まれたハインリッヒ・モーザーは、時計の伝統に囲まれて育った。父親のエールハルト・モーザーは信頼性の高い時計を作る腕利きの時計師として知られ、ハインリッヒは15歳になったとき、その父のもとで時計作りの仕事を開始し、伝統的な時計製造技術を学んでいった。その経験を生かし、1824年8月、ハインリッヒは19歳の若さでシャフハウゼンを離れ、時計の町ル・ロックルで本格的に時計作りの修行を始めることになった。その生活は厳しく、質素な宿舎で暮らし、日に14時間から18時間も働き詰める日々を送った。時計ビジネスで絶対に成功するという固い決意と信念はこの頃芽生えたようだ。当時すでに自ら製作したクロックをドイツの商人に納めるようになって折、その頃の若きハインリッヒに対し“わずかな期間で非常に熟練した時計職人になった”と評した記録が残されている。

父親が他界したのを機に彼は、祖父、父と二代にわたって保持してきたシャフハウゼンの町の時計師の地位を受け継ぐことを切望した。が、シャフハウゼンの町議会はこれを認めなかったという。一時は落胆したハインリッヒだが、彼の野心と先見の明は、新たな挑戦の道を決意させた。1826年、新市場を探求するため、経済成長が著しかったロシア帝国の首都サンクトペテルブルクへ移住する準備を開始したのだ。そして翌1827年、ハインリッヒのロシアへの旅が始まった。が、それ長く辛いものだったという。彼の不屈の精神と卓越した伝統技術は、エンデバー コレクションのこだわり抜いた古典的スタイルに継承されているのは言うまでもない。

ハインリッヒ・モーザー
1805年、スイスのシャフハウゼンで、代々時計製造を受け継ぐ一家に生まれる。1820年代から1824年まで家業に加わり伝統的な時計製造技術を学ぶ。その後、ル・ロックルで修業し、1826年に独立。翌年、ロシアのサンクトペテルブルクでの時計事業を立ち上げ、大成功を収める。1848年、シャフハウゼンに帰還し、時計事業に留まらず、生まれ故郷の産業や社会の発展に貢献した。1874年に他界。


ハインリッヒ・モーザーは、シャフハウゼンで代々時計職人を受け継ぐ家系に生まれた。写真右上はハインリッヒの祖父ヨハネス・モーザーが1770年頃製作したクロック。同左上は父エールハルト・モーザーが19世紀初頭に製作した懐中時計。


時計製造の町として知られるスイス北部のシャフハウゼンの旧市街には、現在でもH.モーザーの創業者であるハインリッヒ・モーザーの生家が残されている。シャフハウゼンの産業の発展に貢献したハインリッヒ・モーザー。その偉業を称え、モーザー通りのモーザー・ガーデン・パークには彼のブロンズの胸像が建てられている。

ハインリッヒ・モーザーは、ロシア帝国のサンクトペテルブルクにおける時計事業を支える製造拠点として、1829年にスイスのル・ロックルに時計製造工場を設立した。

エンデバー・コレクション
ENDEAVOUR Collection

優れた時計職人であり、起業家だった創業者ハインリッヒ・モーザーの人生が着想の源となっている、3部作コレクションの1番目。“真摯な努力”を意味する「エンデバー」の名は、わずか19歳で故郷のシャフハウゼンを離れてル・ロックルで時計職人の見習いになり、努力の末にわずか半年ほどで熟練した時計職人へと成長した彼の不屈の精神を讃えている。立体感を持たせたスワロー型の針など、細部にまでこだわりが凝縮された、気品溢れる古典的なスタイルが特徴だ。

H.モーザー
H.MOSER & Cie.
エンデバー・スモールセコンド
伝統的な懐中時計を想起させるスモールセコンドを装備した、クラシックでエレガントなデザインが特徴。時針と分針は独特の立体感が優美なスワロー型で、美しいグラデーションを描くサンバースト仕上げのフュメダイヤルに、優雅さと気品を与えている。シースルーバックからは、手作業による仕上げと装飾が施された自社製の手巻きムーブメント「HMC321」が確認できる。ローズゴールドケース。ケース径38.8㎜。アリゲーターストラップ。180万円(税抜)。問い合わせ/イースト・ジャパン☎03-3833-9602

パワーリザーブ表示を装備した自社製手巻きムーブメント「HMC321」。秒の単位まで正確に時刻合わせができる秒停止機構や独自のモジュール型脱進機を備えている。
エンデバー・パーペチュアルカレンダー
瞬時に日付を変えるフラッシュ・カレンダーやムーブメントに損傷を与えることなく日付の早送り、巻き戻しの操作をいつでも行える機能を備えた永久カレンダーモデル。ファンキーブルーダイヤルのセンターには小ぶりな矢印型の針を備え、月を表示する。3時位置に日付表示、9時位置にパワーリザーブ表示を装備。7日間のパワーリザーブを実現した自社製手巻きキャリバー「HMC341」を搭載している。ホワイトゴールドケース。シースルーバック。ケース径40.8㎜。クーズーストラップ。620万円(税抜)。

毎時1万8000振動のパーペチュアル・フラッシュ・カレンダー機能を搭載した自社製キャリバー「HMC341」。ムーブメント側から見られる閏年表示を備えている。
エンデバー・スモールセコンド・
ブライアン・フェリー

伝説のロックミュージシャン、ブライアン・フェリーとのコラボモデル。懐中時計からインスパイアされた古典的デザインが印象的。シースルーバックからはパワーリザーブ表示を備えた自社製ムーブメント「HMC321」が見られる。世界限定100本。手巻き。ローズゴールドケース。ケース径38.8㎜。カーフストラップ。195万円(税抜)。
エンデバー・センターセコンド
洗練された文字盤と立体的な針が控えめな様式美を表現するエレガントな3針モデル。シースルーバックからは秒停止機構やデュアル・バレル、独自のモジュール型脱進機を備えた自社製キャリバー「HMC343」が眺められる。7日間パワーリザーブ表示も装備。手巻き。パラジウムケース。ケース径40.8㎜。アリゲーターストラップ。240万円(税抜)。